認定NPO法人 幼い難民を考える会
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認定NPO法人 幼い難民を考える会 caring for young refugees / CYR
CYRカンボジア
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緒方貞子さん

当会の30周年を記念して写真集を出版した際、当時、国際協力機構理事長でいらした緒方貞子さんから、
メッセージを頂戴しました。
今、改めてそのメッセージを読み返し、来年2月に40周年を迎えるにあたり、気持ちを新たにしています。

緒方さん、これからの私達の活動をどうぞ見守ってください。(応援もよろしくお願いします)
ここに、30周年記念写真集に寄せていただいたメッセージを再掲いたします。
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緒方貞子様_顔写真.jpg 「カンボジア30年‐援助から自立へ」へのメッセージ

国際協力機構理事長  緒方 貞子

 「幼い難民を考える会」の設立30周年、おめでとうございます。
30年前の1979年11月、私は、日本政府から「カンボジア難民救済実情調査団」の団長に任命され、タイ・カンボジア国境付近に設置された難民キャンプを訪問しました。1975年のベトナム戦争終結に相前後して、インドシナ3国(ベトナム、ラオス及びカンボジア)の社会主義化の過程で始まった難民の流出は、この頃、ベトナム軍のカンボジア侵攻等によってピークに達していました。難民キャンプでは、西欧諸国を中心に国際的な救援活動が迅速に、そして着実な広がりを見せており、その一方で、見渡す限り日本人らしい人影は全くなく、日本の「出遅れ」を痛感しました。1970年代半ばの日本には、政府においても、民間においても、国際社会の問題に対して何か役割を果たそう、難民のために何かしようという考えはほとんど見られず、1979年7月にジュネーブで開催された国連難民会議において、ようやく日本政府はインドシナ難民支援に向けた姿勢を表明したところだったのです。私は、カンボジア難民に対する救援活動の具体的な進め方を策定するためにタイ・カンボジア国境へ派遣されたのですが、これから具体策を策定しなければならない日本は、一体どこから手をつければよいのか、焦りとも迷いともつかない思いを持ったことを思い出します。

こうした状況に迅速に呼応したのは、民間ボランティア団体でした。この頃、「幼い難民を考える会」をはじめとして、インドシナ難民支援のために数多くの団体が設立されました。インドシナ難民への対応は、まさに日本における難民支援の「原点」ということができると思います。当時の日本社会は、人々の善意の動員と組織化の方途がまだ見出されていなかった時代です。支援の意図のもとに、如何に資金を集め、如何に人を集め、そして、如何にそれらを組織的に動かすことができるのか、予想以上の困難が伴いました。それでも、少しでも難民の役に立とうと日本全国から自らの意思で多くのボランティアが集まり、民間ボランティア団体は、政治上の配慮から救援に直接乗り出すことができない各国政府を横目に、唯一、弱者の救済・支援に大きな効力を発揮しました。また、1980年代前半にはじまった日本国内でのインドシナ難民受け入れにおいても、民間ボランティア団体は、公的支援制度を補完し、日本語教育や住宅・職業斡旋、メンタルサポート等において大きな役割を果たしています。インドシナ難民支援を目的に設立された民間ボランティア団体が対象領域を広げつつ、活動を続け、むしろ、組織力においても、財力においても一層強化され、しっかりと育っていったことは非常に心強いことです。「幼い難民を考える会」も、この30年間、保育支援から幼稚園支援、女性の自立支援と活動を拡大しつつ、カンボジアの人びとのために何が最善であるのか、援助のあり方や方法に検討を重ねてきました。インドシナ難民支援の一連の取り組みを通じて、まさに日本の難民支援の原型が作られ、支援方法が確立されたのだと思います。

30年が経過し、「幼い難民を考える会」が支援したカンボジアの子どもたちも、立派に育っています。貧困を抱え、厳しい状況におかれながらも、必死に勉強に励んでいる子どもたち。高額な学費を負担してくれた家族のために、何よりも勉強を優先し、家族のため、社会のために役に立ちたいと思う子どもたち。病気が多い国のためにどうしても看護師になりたい、貧しい人たちにお金の負担をかけずに治療を施すために医者になりたいという夢を追う子どもたち。カンボジアは、未だ開発・復興の道半ばにありますが、こうした子どもたちの存在は、平和と繁栄への希望であり、「幼い難民を考える会」がカンボジアの社会に残してきた大きな財産の一つでもあります。

日本人、また、日本社会においても、インドシナ難民支援を通じて大きな変化が起こりました。難民問題にしても、人権問題にしても、それまでは日本人の大きな関心の対象になることはありませんでした。インドシナ難民の大量発生とその深刻な状況は、日本人に大きな刺激を与え、その結果、日本社会が国際社会の一員として人道問題について考え、行動するようになったと思います。「幼い難民を考える会」が「相手を助ける組織ではなく、助けたい相手が自立できるような協力をして、子どもが置かれた状況から学ぶ組織」を目指したとおり、日本社会は、民間ボランティア団体の活動を通じてインドシナ難民支援から多くを学びました。民間ボランティア団体の活動が社会に訴える力はとても大きいのです。

現在、情報通信・交通技術の発展に伴うグローバル化の進展によって世界の相互依存が更に高まり、国内問題と国際問題が密接に関わるようになってきました。相互依存の社会では、個々人の「権利」のみに注目するのでなく、「人間性」を重視し、日本人、外国人を問わず、他者との関係性に注目した行動が必要となります。本書をきっかけとして、国際協力・貢献のあり方、果すべき役割、責任について今一度考えていただければ幸いです。

2019年11月15日


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